戦争は一度の事件では終わらない
アルジュナは、一族の破壊から始まる悪の流れを見ています。家族の伝統が失われ、不徳が増し、社会秩序が混乱する。年長者がいなくなれば慣習を伝える人が消え、家ごとの行いだけでなく、ヴェーダに基づく身分上の務めも失われると考えました。
この議論は、古代インドのヴァルナ・ダルマと家族秩序を前提にしたものです。現代社会への直接的な規範としてではなく、アルジュナが戦争の影響をどこまで広く見ていたかを理解するために読みます。彼が恐れているのは、その場の死だけではありません。人、知識、慣習、社会の規範が連鎖的に失われ、戦争の傷が次の世代へ残ることなのです。
ギータプレス版からの日本語訳――第1章第43節「一族の慣習と身分上の務めが失われる」
doṣair etaiḥ kulaghnānāṁ varṇasaṅkarakārakaiḥ |
utsādyante jātidharmāḥ kuladharmāś ca śāśvatāḥ || 43 ||
語句
doṣaiḥ etaiḥ は「これらの悪によって」。
kulaghnānām は「一族を滅ぼす者たちの」。
varṇasaṅkarakārakaiḥ は「ヴァルナの混交を引き起こす」。
utsādyante は「消滅する」。
jātidharmāḥ は「ジャーティの務め、身分上の伝統」。
kuladharmāḥ は「家、一族の慣習」。
śāśvatāḥ は「昔から続く、長く受け継がれてきた」です。
訳
「これらの、ヴァルナの混交を引き起こす悪によって、 一族を滅ぼす者たちの、 古くから続いてきた身分上の伝統と一族の慣習は消滅します。」
注釈訳
ヴァルナの混交を引き起こす悪は、 次のように列挙できる。
第一に、一族の破壊。
第二に、一族の破壊による家族伝統の破壊。
第三に、不徳の優勢。
第四に、不徳が優勢になることによって、 女性が女性としての貞節という高い理想から転落し、 姦通などにふけること。
世代から世代へと受け継がれてきた正しい行いの規範は、 「古くから続く家族伝統」と呼ばれる。
また、
ヴェーダによって教えられるヴァルナ・ダルマが、
Jātidharma という語で意味されている。
それは、 社会のさまざまな身分と階層に応じた義務を定めるものである。
家族の健全な慣習が失われるとき、 それはその慣習の保管者である年長者たちが死ぬことによって起こる。
そして、 ヴァルナの混交へ導く悪が増大すると、 ヴァルナ・ダルマもまた自然に死滅する。
なぜなら、 それは異なる身分に属する両親の結合によって生まれた子孫のうちには、 とどまることができないからである。
このようにして、
ヴァルナの混交を引き起こす悪によって、
古代から伝わる身分上の伝統、
すなわち Jātidharmas と、
家族の慣習、
すなわち Kuladharmas の両方が消滅するのである。