古代インドの家族観から見た、社会秩序の崩壊
第41節は、古代インドの伝統的な家族観とヴァルナ観を前提にしています。家の伝統が消えて抑制が失われると、道徳や夫婦の貞節が力を失い、当時の社会秩序が崩れるとアルジュナは考えました。
原典はこの危機を、「女性の堕落」や「ヴァルナの混交」という、時代背景を強く持つ言葉で表しています。現代の価値判断としてそのまま受け入れるのではなく、当時は家族、婚姻、血統、ヴァルナが社会秩序と密接に結びついていたことを確認する必要があります。ここでの中心は、アルジュナが戦争を個人の死だけでなく、社会の仕組みそのものを崩す危機として見ていることです。
ギータプレス版からの日本語訳――第1章第41節「不徳が広がると社会の秩序が崩れる」
adharmābhibhavātkṛṣṇa praduṣyanti kulastriyaḥ |
strīṣu duṣṭāsu vārṣṇeya jāyate varṇasaṅkaraḥ || 41 ||
語句
adharmābhibhavāt は「不徳が優勢になることによって」。
kṛṣṇa は「クリシュナよ」という呼びかけ。
praduṣyanti は「堕落する」「汚される」。
kulastriyaḥ は「家の女性たち」。
strīṣu duṣṭāsu は「女性たちが堕落すると」。
vārṣṇeya はクリシュナへの呼びかけで、
「ヴリシュニ族の子孫よ」という意味です。
jāyate は「生じる」。
varṇasaṅkaraḥ は「ヴァルナの混交」「身分秩序の混乱」です。
訳
「クリシュナよ、 不徳が優勢になると、 家の女性たちは堕落します。
そして女性たちが堕落すると、 ヴリシュニ族の子孫よ、 ヴァルナの混交が生じます。」
注釈訳
家の伝統が消えると、 男女はあらゆる形の抑制を失う。
多くの場合、 彼らの行為は不徳に染まり始める。
その結果、 罪が優勢となり、 社会全体に広がっていく。
道徳的価値は、 時代遅れの形式のように扱われ、 男女の目には意味を失っていく。
彼らは道徳と抑制の規則を守らないだけでなく、 それを知ろうとさえしなくなる。
さらに、 そのような行動規範を教えようとする者たちを嘲笑し、 あるいは敵対する。
その状態では、 社会規範の根と土台である夫婦の貞節という神聖な法が、 社会に対する力を失う。
その理想が失われると、 もっとも清らかな家の女性たちも腐敗し、 姦通という悪に汚される。
彼女たちは異なるカーストの男性たちと肉体関係を持つ。
母のカーストが父のカーストと異なるため、 その結合から生まれる子どもは混血となる。
こうして世代から世代へと保たれてきた血統の純粋性は、 完全に失われる。