<前回の続きを読んでいきます。>
ここから、 ギーター本文の第1章に入ります。
ただし、いきなり詩句そのものに入る前に、 第1章の表題、 全体の要約、 そして物語上の前置きが置かれています。
ここで大事なのは、 クリシュナがなぜアルジュナの御者になったのか、 そしてサンジャヤがなぜ戦場の様子を語れるのか、 という点です。
ギーターの教えは、 抽象的な講義として始まるのではありません。
戦争を前にして、 アルジュナが迷い、 その戦車の上でクリシュナに導かれる、 という具体的な場面から始まります。
第1章は、 ギーターという大きな教えが語られるための入口です。
ここではまず、 両軍の主な戦士たちが述べられ、 その後、 アルジュナが深い失意に沈んでいく様子が描かれます。
この失意は、 単なる弱さとしてだけ扱われているわけではありません。
進んだ魂に触れるなら、 世俗的な楽しみへの執着を離れる契機にもなりうる。
そのため、 第1章には、 「アルジュナの失意のヨーガ」 という表題が与えられています。
第1章の流れは、 ドリタラーシュトラがサンジャヤに戦争の様子を尋ねるところから始まります。
サンジャヤは、 ドゥルヨーダナがドローナ先生のもとへ行き、 敵軍を見渡す場面を語ります。
その後、 両軍の主要な戦士たちの名前、 ほら貝の音、 戦場に響き渡る大きな音が描かれます。
アルジュナは、 クリシュナに戦車を両軍の間に置くよう頼みます。
そこで彼は、 敵味方に分かれて並ぶ親族、 師、 友人たちを見ます。
そして深い悲しみと混乱に陥り、 戦うことの罪、 家族や伝統が壊れること、 社会が乱れることを思い、 ついには弓を置いて戦車の中に沈みます。
ここまでが、 第1章全体の大きな流れです。
その後、 物語の前置きとして、 なぜこの戦争が起こることになったのかが語られます。
パーンダヴァたちは、 賭けごとによって財産と王国を失い、 十二年の森での追放と、 一年の潜伏生活を送ることになります。
その期間を終えたのち、 王国の返還を求めますが、 ドゥルヨーダナはこれを拒みます。
交渉も実らず、 両陣営は戦争の準備を始めます。
この時、 ドゥルヨーダナとアルジュナは、 同じ日にクリシュナの助けを求めてドヴァーラカーを訪れます。
クリシュナが眠っていたため、 ドゥルヨーダナはその頭の側に座り、 アルジュナは足もとの近くに、 合掌して立ちます。
目を覚ましたクリシュナは、 まずアルジュナを見、 そのあとドゥルヨーダナに気づきます。
二人が助けを求めに来たことを知ると、 クリシュナは二つの選択肢を示します。
一方には、 強大なナーラーヤニー軍。
もう一方には、 戦いには参加せず、 武器も取らないクリシュナ自身。
普通に考えれば、 軍勢の方が大きな力に見えます。
ドゥルヨーダナは、 その強大な軍勢を選び、 喜んで帰っていきます。
しかしアルジュナは、 戦わないクリシュナ自身を選びます。
そして、 長いあいだ心に抱いていた願いとして、 クリシュナに自分の御者になってほしいと頼みます。
クリシュナはその願いを喜んで受け入れ、 アルジュナの戦車を御する者となります。
ここで、 ギーターの場面が準備されます。
ギーターは、 ただ神が遠くから教えを語る形で始まるのではありません。
クリシュナが、 アルジュナの戦車に乗り、 そのそばで導く形で始まります。
その後、 クリシュナは戦争を避けるため、 パーンダヴァ側の使者としてハスティナープラへ赴きます。
しかしドゥルヨーダナは、 針の先ほどの土地も渡さない、 というほど強く拒絶します。
こうして、 戦争は避けられないものとなっていきます。
もう一つ重要なのは、 サンジャヤの位置づけです。
戦いの直前、 聖者ヴィヤーサは、 ドリタラーシュトラに、 戦場を自分の目で見る力を与えることができる、 と申し出ます。
しかしドリタラーシュトラは、 自分の一族が殺される様子を直接見たいとは思わず、 戦いの詳細を聞きたい、 と答えます。
そこでヴィヤーサは、 サンジャヤに神聖な視力を与えます。
そのためサンジャヤは、 戦場で起きる出来事を、 直接見るように知ることができ、 ドリタラーシュトラに語ることができます。
この構造を知っておくと、 第1章1節の形が分かりやすくなります。
ギーターは、 ドリタラーシュトラがサンジャヤに問いかけるところから始まります。
戦場で、 自分の子らとパーンダヴァたちは何をしたのか。
その問いに対して、 サンジャヤが語り始めるのです。
ここまでが、 第1章本文に入る前の前置きです。
次回は、 いよいよ第1章1節、 ドリタラーシュトラの問いを読んでいきます。