事実を伝える言葉が、相手の感情を刺激する
ドゥルヨーダナはドローナに、パーンダヴァ軍を見てほしいと頼みます。しかし、敵の司令官ドリシュタデュムナを、ただ名前で呼ぶことはしません。「ドルパダの息子」「あなたの才能ある弟子」と呼びます。
ドローナとドルパダの間には、過去の深い因縁がありました。しかもドリシュタデュムナは、ドローナを殺す目的で生まれながら、ドローナ自身から武術を学んだ人物です。
ドゥルヨーダナは、敵軍の布陣という事実を示しながら、言葉の選び方によってドローナの古い痛みと怒りも呼び起こそうとしています。相手に「これは放っておけない」と思わせるためです。
この一節では、戦いが武器を交える前から、言葉によって人の注意と感情を動かす形で始まっていることが見えてきます。
ギータプレス版からの日本語訳――第1章第3節「ドゥルヨーダナの最初の言葉」
第1章第3節
paśyaitāṁ pāṇḍuputrāṇām ācārya mahatīṁ camūm |
vyūḍhāṁ drupadaputreṇa tava śiṣyeṇa dhīmatā || 3 ||
語句
paśya
見よ。
etām
あの。
pāṇḍuputrāṇām
パーンドゥの息子たちの。
ācārya
先生よ。
mahatīm
大きな、強大な。
camūm
軍勢。
vyūḍhām
戦いのために布陣した。
drupadaputreṇa
ドルパダの息子、ドリシュタデュムナによって。
tava śiṣyeṇa dhīmatā
あなたの才能ある弟子によって。
訳
先生よ。 見てください。
あなたの才能ある弟子であるドルパダの息子ドリシュタデュムナによって、 戦いのために布陣された、 パーンドゥの息子たちの強大な軍勢を。
注釈訳
外交家として、 ドゥルヨーダナは非常に巧妙であった。
ドローナ先生の、 ドリシュタデュムナに対する復讐心と、 パーンダヴァたちに対する怒りを刺激するために、 彼はドリシュタデュムナを、 「ドルパダの息子」、 そして「あなたの才能ある弟子」と呼んだ。
この言葉によって、 彼はドローナに対し、 遠い昔にドルパダがドローナに対して行った無礼な振る舞いを思い出させた。
さらに、 ドルパダが、 ドローナを殺すという不純な動機をもって祭祀を行い、 その結果としてドリシュタデュムナを息子として得たことも思い出させた。
また暗に、 ドリシュタデュムナは非常に利口であり、 先生であるドローナはあまりにも素朴であった、 とも言っている。
なぜなら、 ドリシュタデュムナはドローナを殺すために生まれたにもかかわらず、 ドローナ自身から弓術の技術と学問を学び取っていたからである。
さらに、 そのドリシュタデュムナが、 敵を困惑させるほど破りがたい形で軍を布陣したという点も、 彼の巧みさを示していた。
パーンダヴァたちは、 そのような人物を最高司令官としていた。
したがって、 これに対してどのような行動方針を取るべきかは、 いまドローナ先生が考えるべきことであった。
カウラヴァ軍は十一アクシャウヒニーから成り、 パーンダヴァ軍は七アクシャウヒニーだけであった。
数の上では少なかったにもかかわらず、 パーンダヴァ軍は、 ヴァジュラヴューハと呼ばれる陣形を採用していたため、 非常に大きく見えた。
さらに、 小さな軍であっても、 配置がより優れ、 より効果的であるなら、 大きな軍より強力であり得る。
そのため、 ドゥルヨーダナはパーンダヴァ軍を「強大な軍勢」と呼び、 それにドローナ先生の注意を向けさせ、 それを打ち破る手段を考えるよう求めたのである。