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イスラムの原理原則

2015-04-09 記載
トピックイスラム

大阪から上海に向かうフェリーの中で、これから遭遇するであろうイスラム世界に関する本を読んだ。

この本は、どちらかと言うとイスラームの原理原則を主に記述してある。本の中にも述べられているが、実際のイスラムはイスラームの原理原則にそぐわないことが多くあるとのこと。とは言え、原理原則を知っておくのは現実を理解する助けになる筈だ。


以下、メモ。



イスラーム
生と死と聖戦
田中 考


■イスラムとは、神の決めた掟(シャリーア)
シャリーアはイスラームにとっての善悪の基準であり、以下2つの総称

・クルアーン
 ムハンマドが神から受けた掲示を直弟子がまとめたもの。ムハンマドの弟子たちによってムハンマド死後まもなくまとめられた。

・ハディース
 ムハンマドの言動を弟子たちが個々にまとめたもの。数が多い。1つの言動に対して伝承者の名前が連なった形式を取るので、同じ言動に対して複数の記録が残る。

■イスラーム法学(フィフク)
イスラームに関する学問の名前

■イスラーム法(アフカーム・フィクフィーヤ)
規定の体系。シャーリアが解読困難なため、イスラーム法学者が纏めた。
規範を5つの範疇に分けた
・義務行為
・推奨行為
・合法(中立)行為
・忌避(自粛)行為
・禁止行為

■神の概念
日本語の「神」の概念とは異なる。
神(アッラー)とは、”物事の道理”であり、唯一のもの。よって一神教。
アミニズム(万物に精霊が宿る考え方)の考え方はあるが、多神教(物事の道理が複数ある、という概念)ではない。

■霊の概念
霊の概念がある。アラビア語で「ルーフ」。
霊(ルーフ)を崇めることはイスラームでは禁止されている。
生物だけでなく自然界の全てに霊(ルーフ)が宿る、というアミニズムの概念。

自然は霊(ルーフ)を持つが、自由意思は持たない。
人間は霊(ルーフ)を持ち、かつ、自由意思を持つ。

霊(ルーフ)の中には自由意思を持つものがいて、それらは「ジン」と呼ばれる。
アラビアンナイトのランプの精霊が良い例。

■世界の創造
創造主(アッラー)が「あれ」と命令して世界を作り出した、という考え。
キリスト教と類似。

■最後の審判
世界が滅び、宇宙も滅んだ後に最後の審判が訪れる。
最終戦争にてイーサー(イエス)とマフディー(メシア)による善の側が勝つが、その平和も長く続かず天変地異によって世界が滅亡する。

■死の概念
肉体から霊が離れること。

お墓で審判があり、生存中の事項について問われる。
その後、霊は「眠り」につき、やがては最期の審判の時によみがえる。
最期の審判の後に来る永遠の来世がイスラーム的な「天国」。

仏教のような輪廻転生の考え方はない。

死体には最期の審判の時まで魂が宿っているので、死体を破損させてはならない。よって土葬をする。
臓器移植も基本的には反対。

死体を沐浴して白い布に包む。

■殉教者の扱い
殉教者は、最期の審判を待たずにすぐに天国に行ける。
死体は沐浴せず、白い布にも包まない。死んだときの服装のまま埋葬する。
紛争地で爆撃に巻き込まれた人も殉教者とされるので、死んだときの服装のまま埋葬する。
奮闘(ジハード)は至高の概念。

■ジハードが成立する条件
戦う目的がイスラームのためであること。
相手が異教徒であること。
自衛のための戦闘、あるいはカリフ(イスラーム指導者)の命令であること。

■イスラームにおける禁止行為
敵を焼き殺すこと
一般市民を巻き込むこと

■自由という概念
人間には自由があるが、その善悪は、前記のように、シャリーア(神の決めた掟)によって定められている。

■政教分離はイスラームにはない
シャリーア(神の決めた掟)の範疇は政治にも及ぶ。

■預言者
神の呼びかけに応じて神の法を託された者。
自分で教義を作ったりはしない。
ムハンマドがイスラーム世界における「最後」の預言者。
預言者は「間違いを犯さない」という特徴がある。
神からの特別な使命を授かっていることを示すための、預言者の奇跡(ムウジザ)を起こす。特別な使命を否定できないような特別の奇跡。

■神(アッラー)
ユダヤ教のモーゼに十戒を与えた神と同じ。
キリスト教のイエスに教示した神と同じ。

■聖者(ワリー)
神に親しい者、という意味。
時に神の啓示を受けることはあっても、間違うことがある。
聖者の奇跡(カラーマ)を起こすことがあるが、預言者の奇跡とはレベルが異なる。

■カリフ(イスラーム指導者)
預言者の代理人(ハリーファ)のこと。
新たな法は作らず、シャリーア(神の決めた掟)に従うことを是とする。

■イスラム国家
本来、イスラームは国家という概念とは無縁のもの。

■カリフ制
理想的なカリフ制の体制下では、国家の枠組みを超えて人が自由に行き来できるようになる。
カリフ制においては、国家の法律は存在しない。シャリーア(神の決めた掟)のみ存在する。
シャリーア(神の決めた掟)に載っていない問題を解決するのがカリフ(イスラーム指導者)の役目。
イスラームではシャリーア(神の決めた掟)の方がカリフ(イスラーム指導者)より強いので、原理的には独裁者は生まれない。

■多神教
多神教は悪いこと。何故ならば、神でないものを神とみなすため。

■偶像崇拝
偶像崇拝は悪いこと。国を崇拝することも偶像崇拝の一種。

■イスラーム国
イスラーム国が「国家」の体をなそうとしていることに対しては、イスラームの原理原則から言うと正しくない。
就任したカリフ(アブー・バクル・バグダーディー)の正当性が疑わしい。
不寛容さが致命的。
イスラームの原理原則にそぐわないことが多い。
しかし、カリフ制復活のための布石にはなるかもしれない、と閉めている。



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こうして読み進めると、よく分っていなかったイスラムの全体像がぼんやりと見えてきた感じだ。

それにしても、輪廻転生の概念がないのは驚きだ。

全体的に日本の宗教とはかなり異なっているように感じるが、旅行する上での基礎知識としてはこのくらいで十分な気がする。



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